論文でも文献でもありませんが、
東京大学教養学部のサイトで、わかりやすい文章を見つけました。
第14回 毛が生える魔法の薬LPA
谷部 功将(ジュニアインタープリター)髪が生まれつき薄いという病気がある。この中には、先天的に毛という毛が全くないものから、体毛はあるが髪だけが薄い、というものまでさまざまな症状のものが含まれる。この理由は、病気の原因が毛包の異常から毛の成長障害まで色々あるからである。毛が生えるまでにはたくさんの過程がありどの一つに欠陥があっても髪は正常には生えないのである。
これまでにこの貧毛症の原因としては、皮膚たんぱく質関係の遺伝子異常が色々見つかってきたが、最近ある酵素の異常で貧毛になる家系が発見された。この症状はロシアにいるチュヴァシュ人とマリ・エル共和国にすむ人々によく見られ同じロシアでもモスクワ地方ではほとんど見られない。チュヴァシュ人は昔、ブルガリアからヴォルガ河流域に移住した人たちの子孫で、元をたどればアルタイ語圏の遊牧民(フン族の末裔)だという。どうやら、遺伝子の起源はこのあたりにありそうだ。
チュヴァシュ人の貧毛症は、第3染色体長腕26-27にあるLIPHと呼ばれている遺伝子に欠失があり、リパーゼHの活性が失われてしまうために発症してしまうものであった。ではなぜリパーゼHが失活すると髪が生えなくなるのだろうか?
リパーゼHはホスファチジン酸(PA)に作用しリゾフォスファチジン酸(LPA)を合成する。LPAは細胞の増殖、細胞骨格構築などの作用があり、発毛に重要な役割を果たす。しかし、体内にはLPA合成反応をつかさどる酵素はリパーゼH以外にも存在する。それではどうしてリパーゼHの欠損が貧毛症を引き起こすのか?
それを調べるために遺伝子の発現場所を解析すると、単純な解答が得られた。リパーゼHが毛包の幹細胞が多い場所に発現が認められたのに対し、リパーゼHと類似の合成反応をつかさどる他の酵素は毛包にはほとんど発現が見られなかったのである。おそらくリパーゼHの反応産物であるLPAが幹細胞の生育に重要であるからだろう。
このことがわかってから製薬会社に面白い動きがあった。彼らはLPAが発毛剤に使えないかということを必死に研究したらしい。この新薬の開発が成功したという話はまだであるのでまだ実用化には至っていないようだ。私も家系的に考えて将来は髪が薄くなりそうなので製薬会社には頑張ってほしいものである。
色々調べていて、「LPAって、割と一般的に体内で生産されるらしいのに、どうして?」
と思っていた謎が解けました。