LIPH 遺伝子変異を認めた先天性乏毛症の1症例

日本遺伝子診療学会
遺伝医学合同学術集会2011抄録集(2011/8/4)
ポスターセッション1

http://www.congre.co.jp/gene//18th/abstracts/P1-36.pdf

【背景】Localized autosomal recessive hypotrichosis(LAH; MIM#s 607903, 604379, 611452)は、非症候性の稀な先天性毛髪疾患である。頭髪の無毛または乏毛を認め、眉毛、睫毛、体毛は欠如する場合から正常に存在する例まで様々である。本症の原因遺伝子としては、DSG4(desmoglein 4)、LIPH(lipase H )、P2RY5 (purinergic receptor P2Y, G protein-coupled,5)などの報告がある。

【症例】症例は 29 歳の女性。生下時より頭部乏毛があり、現在は前頭部および後頭部にわずかな毛髪を有するのみである。
また、眉毛、睫毛、体毛の欠如はなく、その他の症状も認めていない。18 歳時に当院皮膚科を受診し、先天性乏毛症と診断されていた。今回、子供への遺伝を心配し、遺伝相談を希望にて自主来院した。両親・同胞に同様の症状は認めず、家族歴に特記事項なし。

【経過】結婚や挙児についての不安が強く、遺伝性のものならば遺伝子検査を受けたいとの希望があった。当院皮膚科で臨床症状の再評価を受け、頭髪のみの症状であることを確認した。十分な事前カウンセリングの後、LIPH、P2RY5 の解析を行ったところ、P2RY5 には変異を認めず、LIPH に c.736T>A (p.Cys246Ser)のホモ接合変異を認めた。検査後のカウンセリングでは、同変異の日本人のアレル頻度は 3/200 であること、常染色体劣性疾患のためパートナーが保因者でなければ罹患児をもつ可能性は低いが、希望があればパートナーの検査が可能であることを伝えた。

【考察】先天性乏毛症を経験し LIPH の変異を同定した。常染色体劣性遺伝性疾患であるものの、同定された遺伝子変異のキャリアは比較的高頻度であることから、カウンセリングを行う上で遺伝子変異解析は有用であった。